【週刊 AI 懐疑論 #4】「生産性が上がった」——その数字は何を省いているか

「AIを導入して生産性が上がった」という報告が増えている。処理時間が半減した、ドキュメント作成が速くなった、コードレビューが楽になった——数字を並べれば説得力は出る。

だが、その数字はどこまでを拾っているか。

計測されやすいのは「削減された時間」だ。AIに処理を投げた場合と以前の作業を比べれば、数字はつくれる。ツール導入を正当化する立場にとって、この数字は出しやすく、都合も良い。問題は、その後ろに積まれているコストが見えにくいことだ。

AIの出力は、そのまま使えることは少ない。確認がいる。修正がいる。「それっぽい答えが来てしまった」ときの判断がいる。ドキュメントであれコードであれ、AIの出力を実務に乗せるまでに発生するレビューコスト・修正コスト・品質確認コストは、多くの生産性測定の外に置かれている。

なぜか。測定の設計がそこまで届いていないからだ。確認作業は誰かの時間を使っているが、「AIがいなかったときの作業時間」と比較されることは少ない。前提が変わっているのに比較対象が変わっていない。この構造の中で「生産性向上」の数字だけが一人歩きする。

実務レベルでもう一つの変化がある。「自分で考えて判断する」場面が減り、「AIの出力を確認して承認する」場面が増えた、というエンジニアの声は珍しくない。作業の速度は上がっても、判断の質や深度が維持されているかは別の話だ。AIに任せることで以前なら蓄積されていた判断経験が積まれなくなる——これは今すぐ数字に出ないが、中長期では効いてくる。

そして、この問いを立てにくくする組織の力学もある。AI導入を推進した側は成果を示す責任を負っている。数字に疑問を呈することは「空気を読まない」行為になりやすい。測定の設計ではなく、組織の力学が評価の枠を決めていることがある。

「生産性が上がった」は何を測って言っているか。その問いを持たないまま数字を使い続けると、評価は手段を正当化するための道具になる。削減されたコストだけでなく、追加されたコストと、失われつつある判断経験も、測定の射程に入れること——それがAI活用の効果を正確に問うための出発点になる。


参考文献
– 日経ビジネス: https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00537/111900069/
– @IT: https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2510/09/news017.html
– SB Biz: https://www.sbbit.jp/article/cont1/178534


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参考文献

  • https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00537/111900069/
  • https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2510/09/news017.html
  • https://www.sbbit.jp/article/cont1/178534

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